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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)2871号 判決

控訴人(原告)

株式会社ダイハン

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

西川雅偉

右補佐人弁理士

【B】

被控訴人(被告)

株式会社品川工業所

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

右補佐人弁理士

【D】

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙物件目録一記載の全自動たまご焼機(以下、原判決別紙図面(1)記載の構造のもの及び同図面(2)記載の構造のものを合わせて「被告製品」という。)を製造、販売してはならない。

三  被控訴人は、控訴人に対し、四〇〇〇万円及びこれに対する平成八年八月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二事案の概要

本件事案の概要は、次に付加する他は、原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(以下、控訴人を「原告」・被控訴人を「被告」と略称する。)

【原告の当審主張】

一  玉子焼機において液延し装置を前後動自在に支持する手段として、ラック・ピニオンと移動用ローラー・レール等を併用することは本件発明の出願当時の公知技術であって、被告製品でラックが機台中央に敷設され、機台両側にガイドレールが設けられているのは、単なる設計事項にすぎないから、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものである。

二  仮に、被告製品の構成④’にいう空気シリンダー・成形鍋回転用ラック・成形鍋回転用ピニオンが全体として本件発明の構成要件④にいう「ロータリアクチエター」に該当しないものであるとしても、被告製品の構成④’は、成形鍋内の未成形玉子を隣接側の成形鍋に順次反転移送する目的を達成するために設けられ、そのような効果を奏するものであるから、「ロータリアクチエター」を空気シリンダー・成形鍋回転用ラック・成形鍋回転用ピニオンの組み合せに置き換えることは可能である。

又、昭和六一年発行の文献(甲四)によれば、揺動運動のための機器としてロータリアクチエターと、シリンダーにラックとピニオン機構を付加したものとが共に周知・慣用の技術であったことが明らかで、しかも、連続卵焼装置に関する特許公報(甲九)には、成形鍋内の未成形玉子を隣接側の成形鍋に順次反転移送する手段としてシリンダーを用いることが開示されているから、「ロータリアクチエター」を空気シリンダー・成形鍋回転用ラック・成形鍋回転用ピニオンの組み合せに置き換えることは当業者が容易に想到することができたものである。

従って、被告製品の構成④’は本件発明の構成要件④と均等である。

三  さらに、被告製品の構成④’が本件発明の構成要件④と均等でないとしても、被告製品は特許権侵害を免れることを唯一の目的とした本件発明の改悪実施にすぎない。すなわち、空気シリンダーを用いる場合には、カムやラック・ピニオン等の機構を付加する必要があって、設計時の便や機器のコンパクト性、全体のコスト等の点でロータリアクチエターに較べて劣っている。それを敢えて用いるのは、単に特許侵害を免れるために本件発明と同一の技術的思想に基づきつつ特許請求の範囲のうちで比較的重要度の低いものをそれよりも効果の劣るものに置き換え、そのように置き換えたにしても、なお従来技術に較べて作用効果の優れたものとしようとした改悪実施というべきである。

【被告の当審主張】

一  本件発明は、元来公知技術を組み合せただけのもので、その特徴は、液延し装置の往復動による「油引き、液延し、巻き上げ、移動」という玉子焼き調理行為及び焼き上がった玉子焼きの「成形鍋による成形」行為を「全自動」でなす点にある。

そして、右玉子焼き調理行為を自動で行うための動力伝達機構が構成要件②Aの「回転軸」であり、右成形鍋による成形行為を自動で行うための動力伝達機構が構成要件④の「ロータリアクチエター」である。

従って、右玉子焼き調理行為及び成形鍋による成形行為をなす動力の伝達手段は本件発明においては枢要な機構であって、本質的部分に他ならない。この点において構成を異にする被告製品は本件発明の構成要件と均等ということはできない。

二  被告製品は、被告が従来から製造していた原判決別紙物件目録二記載の「小型オムレツたまご焼機 ETH型ロール巻取式」(被告従来品)を基本として、従来の「卵焼機」(甲八、実用新案公報)に記載された液延し装置の動力伝達手段として「ラック・ピニオン」を採用した卵焼き機に、従来の「連続卵焼装置」(甲九、特許公報)に記載された成形鍋による成形行為の動力伝達手段として空気シリンダーを採用した卵焼き機を組み合せたものであるから、本件特許出願当時の公知・公用技術から容易に推考できたものである。

第三当裁判所の判断

一  原告の権利

原告は、次の特許権(「本件特許権」、その特許発明を「本件発明」という。)を有している(甲一、二)。

特許番号  第一八五五八二三号

発明の名称  玉子焼等食料品の加工調理機器

出願日  昭和六二年八月七日(特願昭六二ー一九六一七七号)

公告日  平成五年九月二八日(平五ー六八二四八号)

登録日  平成六年七月七日

特許請求の範囲

「機台1の上部に位置せしめた液延し装置の往復動により油引き、液延し、巻き上げ、移送を行わしめるべく構成してなる玉子焼等の全自動加工調理機器において、機台1上に動力により回転自在に架設してなる回転軸12に、上部に玉子溶液aの注入口及び下部に注出口を夫々開口設け、且つ該注出口下方にロール11及び油引き装置6が成形鍋19方向に近い側になるようにロール装置10を一体に形成してなる液延し装置5を上記、機台1の反成形鍋側から成形鍋19の近傍箇所まで移動すべく前後可動自在に支承すると共に上記、機台1上に予め温度制御機構を組込んだ加熱用のホットプレート21を敷設し、更に該ホットプレート21の端部、反液延し装置5側に数箇の成形鍋19をロータリアクチエター18の作動により該鍋器19内の未成形材料を隣接側の鍋器19方向に順次反転移送し成形を行わしめる成形装置を配設せしめたことを特徴とする玉子焼等食料品の加工調理機器。」(特許公報〔甲二、以下「本件特許公報」という。〕参照)

二  本件発明の構成要件と被告製品の構成

1  本件発明の特許請求の範囲の記載は、本件発明の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)の記載に照らせば、次の構成要件に分説される(争いがない)。

① 機台1の上部に位置せしめた液延し装置の往復動により油引き、液延し、巻き上げ、移送を行わしめるべく構成してなる玉子焼等の全自動加工調理機器において、

②A 機台1上に動力により回転自在に架設してなる回転軸12に、

B 上部に玉子溶液aの注入口及び下部に注出口をそれぞれ開口設け、かつ該注出口下方にロール11及び油引き装置6が成形鍋19方向に近い側になるようにロール装置10を一体に形成してなる液延し装置5を、

C 上記機台1の反成形鍋側から成形鍋19の近傍箇所まで移動すべく前後可動自在に支承するとともに、

③ 上記機台1上に予め温度制御機構を組込んだ加熱用のホットプレート21を敷設し、

④ 更に該ホットプレート21の端部、反液延し装置5側に数箇の成形鍋19をロータリアクチエター18の作動により該鍋器19内の未成形材料を隣接側の鍋器19方向に順次に反転移送し成形を行わしめる成形装置を配設せしめた

⑤ ことを特徴とする玉子焼等食料品の加工調理機器。

2  これに対し、被告製品の構成は、争いのない原判決別紙物件目録一の記載によれば、次のとおり分説するのが相当である(弁論の全趣旨)。

①’ 機台1の上部に位置せしめた液延し装置の往復動により油引き、液延し、巻上げ、移送を行わしめるべく構成してなる全自動たまご焼機において、

②’A 機台1の中央に前記往復動方向に敷設したラック13aと該ラック13aに噛合しモータ31により回転するピニオン13bと、機台1の両側に同往復動方向に設けたガイドレール12と、液延し装置5に取り付けられた移動用ローラー45bと機台1に敷設された移動用レール45aに、

B 上部に開口し下部に玉子溶液の注出口を有する液皿33を揺動自在に設け、かつ該注出口下方にロール11及び油引きロール6が成形鍋19方向に近い側になるようロール装置10を一体に形成してなる液延し装置5を、

C 上記機台1の反成形鍋側から成形鍋19の近傍箇所まで移動すべく前後可動自在に支承するとともに、

③’ 上記機台1上に予め温度制御機構を組み込んだ加熱用のホットプレート21を敷設し、

④’ 更に該ホットプレート21の端部、反液延し装置5側に二筒の成形鍋19を空気シリンダー18aの往復運動を利用して成形鍋回転用ラック18b、成形鍋回転用ピニオン18cを介して該鍋器19内の未成形玉子を隣接側の鍋器19方向に順次に反転移送し成形を行わしめる成形装置を配設せしめた

⑤’ ことを特徴とする玉子焼の加工調理機器。

3  被告製品の右構成を本件発明の構成要件と対比すると、被告製品の構成①’・②’C・③’・⑤’が本件発明の構成要件①・②C・③・⑤をそれぞれ充足することは明らかである(被告も争わないところである)。

そして、(1)構成要件②Aは、「機台上に架設された回転軸」であるのに対し、被告製品の構成②’Aは、「機台の中央に敷設されたラックと該ラックに噛合して回転するピニオンと、機台の両側に設けられたガイドレールと、液延し装置に取り付けられた移動用ローラーと機台に敷設された移動用レール」とからなる点で相違し、(2)構成要件②Bは、「上部に玉子溶液の注入口及び下部に注出口をそれぞれ開口設け」たのに対し、被告製品の構成②’Bは、「上部に開口し下部に玉子溶液の注出口を有する液皿を揺動自在に設け」た点で相違し、(3)構成要件④は、「成形鍋をロータリアクチエターの作動により反転移送」するのに対し、被告製品の構成④’は、「成形鍋を空気シリンダーの往復運動を利用し回転用ラック、回転用ピニオンを介して反転移送」する点で相違しているところ、原告は、構成要件②Bと被告製品の構成②’Bとは実質上同一であり、構成要件②Aと被告製品の構成②’Aとは均等(相違は構造上の微差又は単なる設計変更にすぎない)であり、構成要件④と被告製品の構成④’も均等ないし改悪実施であって、いずれも本件発明の技術的範囲に属すると主張する。

特許権侵害訴訟において、相手方が製造等をする製品等が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、①右部分が特許発明の本質的部分でなく、②右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③右のように置き換えることに、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁第三小法廷平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。

三  本件発明の技術的範囲

1  本件発明は、玉子焼等の全自動加工調理機器において、大量の玉子焼・厚焼等を風味を損なうことなく手焼き風の美味しさをも得られるよう連続的に焼上げ加工することを目的とした加工調理機器に関するものである(本件特許公報1欄22ないし25行)。

従来の玉子焼等食料品の自動加工調理機器は、多数の鍋器をベルトチェン上に配置し、これを回転させながら連続的に焼上げ加工が行われているため、多数の鍋器にその都度油引き等の準備を要し、とくに各鍋器毎に加熱することから周辺への熱洩れが甚だしく不経済であり、又、一定の厚さ・焼上げが困難で均等な商品の製造が難しく、さらに、機器全体が高大となり相当汎大なスペースを要する等の欠点があった(本件特許公報1欄26ないし2欄10行)。

本件発明は、こうした課題を解決するため、液延し装置を前進させると同時に油引き装置でホットプレート上に油引きをし、戻動時に液延し装置を開口して材料溶液をホットプレート上に充配伸延し、さらに往動時にロール装置でホットプレート上の焼上げた材料を巻き上げながら成形鍋に移送する作動を連続的に繰り返し行うように構成したものである(本件特許公報2欄11ないし20行)。

従って、本件発明は、(1)機台上に加熱用のホットプレートを敷設し、その一端に成形鍋機を設け、(2)機台上に設けられた液延し装置が回転軸の作動によりホットプレートの反成形鍋側から成形鍋の近傍まで往復動をし、(3)液延し装置の上下には玉子溶液の注入口と注出口を備え、注出口の下方には油引き装置とロール装置を備え、ロールが油引き装置より成形鍋に近い側になるよう一体に形成され、(4)成形鍋中の未成形材料をロータリアクチエターの作動により隣接成形鍋に反転移送することを基本的な構成要素とするものと認められる(甲一〇ないし一二、弁論の全趣旨)。

2  ところで、自動卵焼機については、本件特許権の出願前にすでに次のような考案が開示されていた(甲八)。すなわち、卵焼きの自動調理機器において、(1)機台上に熱板とそれを挾む軌条を敷設し、熱板の一端に製品受取バスケットを設け、(2)右軌条上を往復移動する台車に軌条と直交するローラーを軸架し、ローラーの前後にスクレーパーを配置し、(3)台車の両端に原料供給バスケットを軸架し、台車の移動に伴って同バスケットを順次傾倒させる案内レールを軌条に沿って設けることを構成とする卵焼機である。

右の卵焼機においては、台車に付設されたローラーは軸架にピニオンを設け、軌条に沿って設けられたラックと右ピニオンを中間歯車を介して噛合させることによってローラーを進行方向とは逆に回転させるとともに、台車は、原動機により正逆回転する螺杆(回転軸)とそれに螺合する螺子によって往復移動させることが開示されていた(甲八《実用新案公報》の1欄30ないし35行、2欄8ないし12行参照)。

又、被告は、本件特許権の出願前である昭和五四年頃からにすでに次のような構成の小型オムレツたまご焼機(ETH型ロール巻取式、「被告従来品」)を製造販売していた(乙二、弁論の全趣旨)。すなわち、ロール巻取式手動たまご焼機において、(1)架台上に焼皿とその一端に整形装置を備え、焼皿を挾むレールとそれに並行するラックを設け、(2)右レール上に移動用ローラによって支持される巻取装置には卵液受皿と巻取ロールを付設し、(3)巻取ロールはモータによって駆動されるが、巻取装置自体は移動用ピニオンとこれを回すための手動用ハンドルを備え、右ピニオンが架台上のラックと噛み合うことによって往復動することを構成とする卵焼機である。

さらに、本件特許権の出願前にすでに次のような発明も開示されていた(甲九)。すなわち、連続卵焼装置において、(1)多数の並列した焼皿とそれを清掃し注油するローラー、卵液注入装置、焼皿内の平板状卵焼をロール巻きしながら横に転出させるローラー付き巻上移動装置、転出された卵焼を押圧成形する一次・二次の成形反転装置を備え、(2)清掃注油用ローラーの前方に卵液注入装置を、卵液注入装置の前方に巻上移動装置を各配置し、(3)卵液注入装置は卵液収容タンクと定量分割器と焼皿への卵液注入容器とを備え、(4)成形反転装置は、第一成形皿とその上方に位置する加圧シリンダー、その下端に取り付けられた押え板とによってロール巻卵焼を上方から押圧成形し、第一反転手段は第一成形皿に連結したシリンダーにより同成形皿を一八〇度回転させて中の卵焼を第二成形皿に転倒させ、第二成形皿・第二反転手段は第一のそれと同様に中の卵焼を押圧成形し反転させる構成の調理機器である。

3  以上のように、本件特許権の出願前に公知・公用であった加工調理機器の構成と本件発明の構成要件を比較対照すると、前記1で説示した本件発明の基本的な構成要素のうち、(1)機台上に加熱用のホットプレートを敷設し、その一端に成形鍋器を設けること、(2)機台上に設けられた液延し装置が回転軸の作動によりホットプレートの反成形鍋側から成形鍋の近傍まで往復動をすること、(3)上下に玉子溶液の注入口と注出口を備えた液延し装置に、ロール及び油引き装置を支承するロール装置機構を一体形成していること、(4)成形鍋中の未成形材料を隣接成形鍋に反転移送すること、という構成はすでに公知であったと認められる。

そうすると、本件発明が新規性・進歩性を有するのは、玉子液の注入から玉子焼の成形仕上げまでを同一方向に連続した一体の工程として全自動化するために、(ア)(甲八に記載されているような)ロール及び油引き装置を一体形成した液延し装置がホットプレート上を移動可能に支承された玉子焼機に、(甲九に記載されているような)成形鍋中の未成形材料を隣接成形鍋に自動反転移送する成形鍋を、組み合せたこと、(イ)液延し装置を機台上に架設した(軌条ではなく)回転軸に支承したこと、(ウ)ロール及び油引き装置を成形鍋に近い側になるように形成されていること、(エ)成形鍋の反転移送をロータリアクチエターの作動により行うこと、という構成を一体として採用した点にあり、従ってまた、その部分に限られるものというべきである。

4  右のことは、本件特許権の出願経過からも裏付けることができる。すなわち、証拠(甲八・九・一一、乙七ないし一一)及び弁論の全趣旨によれば、右出願経過は次のとおりであったことが認められる。

(一) 本件特許権の出願に対しては、平成四年三月一八日付で拒絶理由通知書(甲一一)が発せられたが、その理由は、「本発明は、甲八の卵焼機に甲九の成形鍋を付設したにすぎず、油引き装置を付設することも焼板焼入技術において周知の技術である。」というものであった。

これに対し、原告は、意見書(乙七)を提出し、「甲八の考案においては焼き上げが左右両方向であるのに対し、本発明は焼き上げが常に同一方向である点などで異なり、甲九の発明においては多数の焼皿を配列して製品を機構の横方向から取り出すのに対し、本発明は進行方向に連続的一定方向に取り出す機構である点で異なり、結局、本発明は、同一方向に対して油引きその他の作業に続いて該焼き上げられた材料をロール装置の移動により巻き上げしながら成形鍋方向に移送する作動を連続的一工程に行わせしめて繰り返し行わせるように構成したことを特徴とする全く新規な発明である。」(要旨)と述べた。

(二) 次いで、同年九月一四日付で「特許請求の範囲に記載の『転動回転軸』とはどのような物か、『液延し装置機構』なる物をどのように『支承連結設け』るのか不明である。」等の点について重ねて拒絶理由通知書(乙九)が発せられたのに対し、原告は、手続補正書(乙一〇)を提出し、特許請求の範囲に「機台上部に並列状に架設せる転動回転軸に、前部に油引き装置、ロール装置を一体的に形成してなる液延し装置機構を前後可動自在に支承連結設け」とあるのを、「機台の上部に動力により回転自在に架設してなる回転軸に、(中略)ロール装置を一体に形成してなる液延し装置を前後可動自在に支承する」と補正した。

(三) さらに、平成五年一月二二日付で「特許請求の範囲が明瞭でない」との拒絶理由通知書(甲一二)が発せられたのに対しても、原告は、手続補正書(乙一一)を提出し、特許請求の範囲の記載を「ロール及び油引き装置が成形鍋方向に近い側になるようにロール装置を一体に形成してなる液延し装置を、上記機台の反成形鍋側から成形鍋の近傍箇所まで移動すべく前後可動自在に支承する」と補正した。

以上の補正の結果、本件発明は平成五年九月二八日に出願公告決定がされたものである。

5  前記のとおり、均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分でないことを要するところ、右にいう本質的部分というのは、特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じるための部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記3の(ア)ないし(エ)の各構成は、いずれも本件発明特有の作用効果である「玉子焼きの全ての焼成工程を全自動にて一連工程のもとにて行わしめ、短時間にて成品としては全くバラツキがなく均等で美しい焼上げ食料品を大量に短時間にて能率的、衛生的に求めることができる。」という作用効果(引用にかかる原判決第二の一1(三)参照)を生じるために不可欠の構成というべきであるから、本件発明の本質的部分ということができる。

そうであれば、前記二3で指摘した本件発明の構成要件と被告製品の構成との相違点のうち、被告製品の構成②’Aが本件発明の構成要件②Aの「機台上に架設された回転軸」を充足していない点、及び④’が④の「ロータリアクチエターの作動による反転移送」を充足していない点は、いずれも本件発明の本質的部分における相違点といわなければならない。

従って、右の②’A及び④’が②A及び④とそれぞれ均等であるとの原告の主張は、その余の要件について検討するまでもなく、採用することができないから、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

なお、原告は、(1)卵焼機において液延し装置を前後動自在に支持する手段として、ラック・ピニオンと移動用ローラー・レール等を併用することは本件発明の出願当時の公知技術であって、被告製品の構成②”Aにおいてラックが機台中央に敷設され、機台両側にガイドレールが設けられているのは、単なる設計事項にすぎない、(2)被告製品の④’が空気シリンダーを用いラック・ピニオン等の機構を付加するのは本件発明の改悪実施であると主張するけれども、前示のとおり、本件発明の構成要件②Aの「機台上に架設された回転軸」及び④の「ロータリアクチエターの作動による反転移送」が本件発明の本質的部分に含まれると解する以上、被告製品におけるこれらの相違点をもって、単なる設計事項ないしは改悪実施であるということはできない。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 小原卓雄)

裁判官山田陽三は差し支えにつき署名押印できない。裁判長裁判官 鳥越健治

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